我が家を通り過ぎていったものたち(その2)
我が家を通り過ぎていったものたち(その1)からの続き。
その次は冷蔵庫。
東京に出てきてすぐに購入した2ドアの安物で、とにかく冷凍庫がすぐに霜でおおわれるというものであった。
少し放っておくと増殖した霜で入れておいたものが遭難してしまい、たまに救出作業を行った際に色々と発掘することなってしまったのは内緒である。
帰省した実家から戻ってきたらすでに職務を放棄してしまっており、粗大ゴミとして廃棄処分に処するつもりであったが、現在はモノ入れとして第二の人生を歩んでいる。
元々備え付けの小さな冷蔵庫があったため、冷蔵庫無しの生活はまぬがれた。
そしてとうとうエアコンが。
昨年、晩秋から初冬へ季節が移り変わっていく頃、だいぶ気温も低くなってきたのでエアコンのスイッチを入れてみた。
しかしいくら待っても出てくる風は冷たいまま。
その前の夏はガンガンに冷やしてくれたのに、使ってない秋の間に一体何が起こったんだ?
エアコンの他にもこたつやファンヒーターがあったのでその冬はそれらを駆使して、「冷房の方はきっと大丈夫」などと何の根拠もない思い込みでそのまま放っておいた。
そしてこの夏、おもむろにエアコンをつけてみたが案の定全く冷やしてくれない。
いや、厳密に言うとわずかに冷えているような気がしなくもないが、冷えすぎて寒いくらいだぜ!という状況には全く届いておらず、真夏はとてもじゃないが耐えられないだろう。
夏場の冷房器具はこのエアコンしかないため、そうそうに修理しなくては死んでしまう。
学生の頃、俺の誕生日プレゼントにと使ってないコーヒーメーカーを友達がくれることになった。
特にコーヒー好きという訳ではなかったが、それなりに毎日コーヒーを飲む俺は「ドリップしたコーヒーが自宅で飲めるんだ」と素直に喜んだ。
ある休みの日、その友達がコーヒーメーカーを持って我が家を訪問。
俺は快く部屋へ招き入れ、友人は今訪問の目的であるコーヒーメーカーをカバンから出す。
「誕生日おめでとう」
そう言いながらコーヒーメーカーを俺に手渡そうとしたその時、ガラス製のポット部がメーカー本体から静かに、そしてゆっくりと滑り落ちた。
我が家の床は畳ではなくフローリング、その固い床にガラス製のポットが落ち、俺や友人の目の前であざやかに砕け散った。
「……」
その瞬間、誰も声を発することが出来ず、この状況が一体どういうことなのか理解できずにいた。
最初にも書いたが、特にコーヒー好きではない。
だが、直前までコーヒーメーカーをもらえると喜んでいた俺は、手を伸ばせば届く距離でいきなりお預けをくらわされた格好になり、このコーヒーに対する欲望をどこへぶつければ良いのか分からなくなった。
『形あるものはいつか壊れる』という言葉がいつまでも俺の頭の中をグルグルと回っていた……
(その友人はポットのみをメーカーに注文し、後日ちゃんと届けてくれた)
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